研究内容 Research

有機半導体分子の電子状態

今の課題・目標

すでに分子性の半導体の電子状態設計は実用化が広まりつつありますが、 表面に於いて これまでにない有機分子の電子状態構築法を開拓することで、 化合物半導体の創製と電子状態制御、機能性表面の活性化、触媒の促進・制御などの分野で 新たな2次元物性の新展開の端緒とします。我々の班ではUPS(Ultraviolet photoelectron spectroscopy : 紫外光電子分光法)や2PPES(Two-Photon Photoemission : 二光子電子分光法)といった実験手法を用いて電子状態や表面構造を解明することが目的です。

近年の成果、手法

Au(111)面上にp-カルボランチオールを気相吸着させた際はAu由来のピークを増強させるような結果が得られ、今後のより一層の理解を期待されており、展望としては2PPES(二光子光電子分光法)や理論計算により非占有状態の解明を含めたさらなる研究を考えております。

ups_pcarbo/au
Au(111)表面上にp-carboranethiolを気相吸着させた際のUPSスペクトル

光電分光により放出された光電子の運動エネルギーを観測することで表面状態における束縛エネルギーや仕事関数といった情報を知ることが可能となり表面における構造や電子状態の解明へと寄与します。

有機分子の金属表面上の吸着構造

今の課題・目標

固体の表面は、分子・原子と固体の相互作用が生じる特殊な2次元空間です。そこで生じる現象では、気相中の分子や固体の中とは異なる取り扱いが必要となります。このような表面の特殊な環境を活かして、超芳香属性を持つ有機分子、カルボランをAu(111)基板に表面吸着させ、半導体や貴金属の表面局在電子の制御を目指しています。また、この電子状態を解明するため、立体的な吸着構造の観測や有機物由来の電子状態の測定に、走査型トンネル顕微鏡を用いています。吸着構造の違いの観察結果から電子状態に影響を与えていると予想できたので、理論計算を行って比較をしていきます。すでに分子性の半導体の電子状態設計は実用化が広まりつつありますが、表面においてこれまでにない有機分子の電子状態構築法を開拓することで、化合物半導体の作製、電子状態制御、機能性表面の活性化などの分野で新たな2次元物質の新展開を期待しています。

近年の成果、手法

実験はすべて超高真空下(〜2.0×10-8 [Pa])、室温でSTM(JEOL 社製)観察を行いました。試料は、雲母上に金を真空蒸着させ、通電加熱によりAu(111)表面を作製しました。この表面にp-カルボランチオールを気相吸着させました。

stm1
上段:STM像、下段:STSスペクトル

左図はAu(111)基板にp-カルボランチオールを吸着させたSTM像とSTSの結果です。吸着量をあげていくと、吸着していない部分に新たに吸着するのではなく、すでに吸着している部分に密集するように吸着していることが分かりました。STSの結果からも、S由来の電子状態密度が見られました。

右図は、同様にAu(111)基板にp-カルボランチオールを吸着させたSTM像とSTSの結果、p-カルボランチオール同士が結合して大きくなったクラスターをline profileで計った結果です。STSとline profileの結果から、p—カルボランチオール同士の結合の数が多いほど、電子状態密度の位置がシフトしていることが分かり、お互いが電子状態に影響を与えていることが予想できます。 今後は蒸着量を増やし、加熱することによってどのように変化するかを測定していきます。

二次元ネットワーク分子膜の形成と光・磁気物性

今の課題・目標

有機薄膜、とりわけ導電性有機薄膜は有機発光素子やトランジスタの材料として用いられています。有機薄膜を用いたデバイスは柔軟、軽量でシリコンや化合物半導体にはない特徴をもち今後のエレクトロニクスデバイス分野での進展が期待されています。 様々な有機薄膜がある中でも私たちは金属イオンと有機配位子の配位結合からなる有機金属構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)に注目しています。MOFを構成する金属イオンと有機配位子の組み合わせを選択することで比較的自由に機能性を設計することが可能です。フレームワーク内の空隙は分子を取り込む空間として働き、触媒やセンサーとしての応用が期待されます。

近年の成果、手法

5,10,15,20-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(TCPP)と銅イオンを組み合わせた2次元薄膜MOF(TCPP-Cu)について原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)や分光測定、加えて電子状態計算等の手法を用いた研究を行っています。TCPPを含めポルフィリン誘導体は光吸収に優れた化合物で有機薄膜太陽電池、人工光合成や光触媒への応用が期待されます。

afm2

Langmuir Blodgett法とLayer-By-Layer法を組み合わせることでTCPP-Cu薄膜を層数制御し作成することができました。上図は実際にTCPP-Cu薄膜をAFMで観察したものです。3.0×3.0 程の単層が得られたことがAFM像から分かります。

afm3

現在はポルフィリン環の中心に磁性原子があるようなメタルポルフィリンを本研究と同様に薄膜として作成し有機磁性体が得られることを目標とし研究を行っています。

表面散乱による負イオン生成

今の課題・目標

今日のイオンビームの技術的な発展の中で負電荷のイオンが改めて注目されています。これまでにイオンビーム散乱後の正イオンに着目した研究は数多く行われてきたが、負イオンを取り扱う研究は少ないです。これまでの長年のイオンビームと固体表面との相互作用の研究で,負イオン発生法は未だ確立されていないにも拘らず,正イオンより負イオンのほうが表面電圧を低く保て,試料へのダメージが低いなどの効果が得られています。また、エネルギー中性粒子(原子)ビーム生成においても負イオンが利用されています。このように多様な領域の応用で,高効率の負イオン発生源が重要なツールとして期待されています。本研究では正イオンを物質に照射し、電荷交換を引き起こすことによって負イオンを生成し、その生成量の仕事関数による依存性を評価し、将来的には負イオンの高生成効率を制御して新たな応用を目指します。そのために現在は光を試料にあて、その試料から飛び出してくる電子を検出することにより仕事関数を測定する実験系を作ることが課題となっています。

近年の成果、手法

負イオンを生成・検出するための実験系を新たにつくり、試料表面で散乱した負イオンと正イオン・電子を弁別可能にしました。仕事関数の低い物質で、イオン散乱表面で電荷交換が起こり、これまで顧みられてこなかった負イオンが生成されていることが示唆できました。

層状半導体の単分子層膜生成と欠陥の評価

今の課題・目標

近年、シリコンに代わる新たな2次元半導体デバイス材料としてMoS2薄膜が期待されており、このMoS2薄膜の電子デバイス応用に向けて、その性能に大きく影響を与える格子欠陥に対する理解が必要とされています。私たちの研究室では、層状構造を成している多層 MoS2をLiインターカレーション法を用いた化学的剥離やスコッチテープ法を用いた機械的剥離法などにより剥離してMoS2薄膜の作成を行っており、この試料にAr+スパッタリングを行うことで格子欠陥を作成し、変化する格子構造や電子状態、フォノンの寿命などを明らかにすることを目標に光学手法を用いて実験を行っています。

近年の成果、手法

化学的剥離によって安定的にMoS2薄膜を作成することに成功した。ラマン分光法、DFT計算などによって、格子欠陥作成後に変化する格子構造や、禁制帯に新たな電子準位が出現するなどの電子状態の解明をすることができた。今後は、格子欠陥作成後の薄膜においてのフォノン寿命を測定する光学手法を模索していく予定である。